中小M&Aの株式価値算定の不思議と実際(2/4)
こんにちは!M&A One株式会社、代表取締役の吉川です。
前回から4回に渡って、
企業価値算定の概論と実際
というテーマでお送りしています。
■企業価値算定の概論
(これまで)
3.1 企業価値算定の全体像①インカムアプローチ
(ここから)
3.2 企業価値算定の全体像②コストアプローチ
3.3 企業価値算定の全体像③マーケットアプローチ
3.4 中小M&A支援で用いる価値算定手法と企業価値理論との関連性
今回は、企業価値算定で用いられる
「コストアプローチ」についてです。
コストアプローチの考え方
コストアプローチの考え方は、企業の価値を算定する際、
その企業を再構築するために必要な費用(コスト)を算出し、
それをもとに評価する手法です。
具体的には(一般的には)
(1)簿価純資産を評価額とする
(2)時価純資産を評価額とする
方法があります。
(1)簿価純資産を評価額とする手法の概要と注意点
コストアプローチでは、企業を再構築するために必要な費用を算出するのがベースです。
簿価純資産をベースとした評価額は、
決算書上の負債と資産の差額、
おおまかには資本金と利益剰余金の合計になります。
資産の市場価値を考慮しないため、対象会社が持つ資産の取引時点での資産性、または事業性評価、
また黒字であれば利益剰余金が将来の当期純利益から増えていくことなどを反映できません。
そのため、財務面の評価には適していますが、
対象会社の資産性や事業性は織り込まれないため、
他の方法と組み合わせて使用することが多いです。
組み合わせについては、最後の回(1/4)でも改めて解説しますが、
企業価値算定の理論から少し離れた「年買法」という方法で価格付けを習慣が
今は広まっています。
「年買法」については、もう少しコストアプローチの一般的な概要に触れた後で解説します。
(2)時価純資産を評価額とする手法の概要と注意点
時価純資産の場合は、企業の持つ資産の資産性を評価に織り込むことができます。
この点が簿価純資産ベースの場合との違いです。
一方で、簿価純資産と同様、事業性の評価は織り込まれなくなります。
一般に、簿価純資産も時価純資産も、評価額が他の手法と比較して、
まず低くなる傾向にあります。
評価方法は簡便ではありますが、M&Aにおいては一工夫する必要があります。
方法は大きく2つです。
コストアプローチの応用手法
(1)「年買法」を用いる
(2)「本当に同じ事業を再構築するには幾らコストがかかるか」シミュレーションする
(1)「年買法」を用いる
純資産に営業利益を数年分(2年~5年が多いです)加算する方法です。
簡便なため、多くの中小M&Aで用いられています。
数年分の根拠は理論的なものというよりは、相場観に近く、
業界によって異なります。
例えば、小売業や美容業などは2年とされることが多いです。
消費者トレンドに左右されるという理由です。
卸業も商材の価格に業績が左右されるため、2年が多いです。
逆に(今後どうなっていくかは分かりませんが)
システム開発や運送業などは、高めの傾向があります。
買い手企業の採用コスト、発注コストが高まる傾向にあるため、人気となるためです。
この「年買法」は理論的な根拠があるわけではなく、
M&Aアドバイザーの中でも見解が分かれる価格付けの方法なのですが、
私の理解としては、コストアプローチを補う形で、交渉しやすい価格設定の手法として
中小企業のために編み出された方法と位置づけています。
(2)「本当に同じ事業を再構築するには幾らコストがかかるか」シミュレーションする
こちらはスモールM&Aで特に考えやすく、有効な考え方です。
例えば、買い手にとっての売り手の価値が「残された従業員」である場合です。
この場合は、買い手の人手が足りない場合で、
売り手企業で働いている従業員に仕事を任せたい、
といった買いニーズの際によく発生します。
この場合は、残る従業員の採用コストを、人材紹介エージェントに支払う費用と見合いにして、比較
することが買い手の目的にかなっています。
売り手としても、従業員の活躍を期待されているM&Aのため、
「企業の永続」や「従業員の雇用維持」を重視して、譲渡に応じることが多いです。
「本当に同じ事業」の再構築には、顧客基盤の構築にかかったコストや、
許認可の取得、会社設立のコストなども織り込む必要がありますが、
人材紹介料との比較は従業員数が少ない場合はシンプルで交渉しやすいことが多いです。
「本当に同じ事業」の再構築コストについて、私は目的と規模次第では、
売り手にとっても買い手とってもフラットで理解もされやすく、
個人的に推奨しています。
次回は、マーケットアプローチについて解説します