中小M&Aの株式価値算定の不思議と実際(1/4)

 こんにちは!M&A One株式会社、代表取締役の吉川です。

 今回から4回に渡って、

 企業価値算定の概論と実際

 というテーマでお伝えします。

 相談者様の多くが、「幾らで売れるのか」気になっているかと思います。

 構成は以下の通りです。

■企業価値算定の概論

 3.1 企業価値算定の全体像①インカムアプローチ

 3.2 企業価値算定の全体像②コストアプローチ

 3.3 企業価値算定の全体像③マーケットアプローチ

 3.4 中小M&A支援で用いる価値算定手法と企業価値理論との関連性

 企業の価値については、ネットでも様々に紹介されているかと思います。

 多くは一般論か、個別論点のテクニカルな事項についての解説です。

 (調べる人が、初心者であれば一般論、玄人な人はテクニカルなことを調べるから、

  検索ニーズに合わせてあるのかと思われます。)

 企業価値算定については、理論は本でも多く紹介されています。

 (私も本や金融機関の研修で学びました。)

 一方で、中小M&Aにおいて、実際に活用されている方法は

 理論通りではないことが

 実は多いのです。

 ここでは、その概要と概念を通しで理解しながら、

 実際に中小M&Aにおいて用いられる方法との関係性をお伝えします。

 第1回目は、企業価値算定で代表的な

 「インカムアプローチ」についてです。

 前半は教科書的、お勉強チックな内容が続きますが、

 すぐに

 実践的な側面

 を織り交ぜて解説しますので、どうぞお付き合いください!

 企業価値算定には、

 (理論的には)

  (1)インカムアプローチ

  (2)コストアプローチ

  (3)マーケットアプローチ

 の3つに分けられます。

 インカムアプローチは、

 企業の価値を、その企業の将来の利益やキャッシュフローに基づいて評価する方法です。

 ひらたく言うと、「その企業が将来、どれくらい利益を生み、キャッシュをもたらすのか」

 で価値評価しようという考えです。

 企業を買収する目線からすると、

 買収した企業が将来稼ぐ利益貢献を目線にすることが自然な考えであることから、

 このインカムアプローチは(形はさておき)常に念頭に置いておかなければなりません。

 具体的な方法として、インカムアプローチの代表的な手法である

 「DCF法」を紹介します。

 敢えて一度、定義に沿って、なるべく簡潔に、解説をしますと・・・

 DCF法は、予想される将来のキャッシュフローを「現在価値」に割り引いたものを

 企業価値とする方法です。

 「ディスカウント・キャッシュフロー」と呼ばれ、

 ここの「ディスカウント」は、将来の利益を「現在価値」に割り引くことを指します。

 「現在価値」とは・・・と続けると

 かなり小難しい(!)

 ので、概要の概要に絞ってお話します。

 ※おそらく調べものベースだと、込み入った各論を理解する必要に迫られると思います。

 中小企業診断士の資格をお持ちの方は、既にご存知かと思いますが、

 詳細を理解するには1カ月、2カ月と研鑽を積む必要があったりします。

 (私も投資銀行に入って2カ月間、財務分析の講習を受けながらDCF法を習いました…)

 エッセンスとして2つだけお話します。

 実は中小M&Aでは使われないのですが、

 「使われない理由」を把握しておくことが

 M&Aの相談やM&Aアドバイザーと対峙する皆さんにとって重要だからです。

 逆に言うと、中小M&Aでは

 「DCF法の適用が難しい」

 「それはこういった理由からだ」

 の2つだけ理解があれば、まず十分とも言えます。

 (1)DCF法のポイント1
 :評価対象の将来キャッシュフローの「将来」が「永遠」であること

 DCF法は、将来のキャッシュフローを評価するので、

 永遠に続く将来に渡って発生するキャッシュフローを評価します。

 考え方としては、企業は永続的に存在し事業を継続するという

 「ゴーイングコンサーン」の前提に基づいています。

 概念としては、企業が永続する前提だから、キャッシュフローも永続する、という流れです。

 理屈としては、辻褄があいます。

 計算としても、数学的な手法を用いれば計算されます。

 ただ、中小M&Aにおいて、現実問題、

 例えば5年後の利益がどうなっているか、

 さらに5年後以降の利益がどうなるか、買い手とすり合わせをしなくてはなりません。

 大企業のM&Aではよく使われる手法ですが、

 将来の見通しが見えにくい中小企業においては、

 なかなか適用が難しいのです。

 (2)DCF法のポイント2
 :「遠い将来」のキャッシュフローが仮説ベースであること

 1つめのポイントとして先ほど、

 企業が将来生み出す価値の「将来」が「永遠」であることに触れました。

 では例えば、100年度以降の

 DCF法では、5年後や10年後などベンチマークとなる年を決めて、

 それ以降、毎年何%ずつ成長するという「永久成長率」を置きます。

 1つ目のポイント同様、5年後の未来も見通しが難しい(私だってそうです!)のに、

 それ以降、何%ずつ成長するか、仮説に仮説を重ねる形になります。

 中小M&Aにおける価格決定プロセスは、その是非を含めて所説ありますが、

 企業価値算定の理論通りに行われていない背景には、

 M&Aにおける価格の妥当性を考えたとき、

 仮説が重なって議論や交渉が着地しにくいため、

 中小企業の企業価値算定では実際にはあまり使われていない、

 といった事情があると言われています。

 次回は、コストアプローチでの企業価値算定について

 お伝えしていきます。