中小M&Aの株式価値算定の不思議と実際(4/4)

 こんにちは!M&A One株式会社、代表取締役の吉川です。

 4回に渡って、

 企業価値算定の概論と実際

 というテーマでお送りしています。

■企業価値算定の概論

 (これまで)

 3.1 企業価値算定の全体像①インカムアプローチ

 3.2 企業価値算定の全体像②コストアプローチ

 3.3 企業価値算定の全体像③マーケットアプローチ

 (ここから)

 3.4 中小M&A支援で用いる価値算定手法と企業価値理論との関連性

 最終回は遂に、
 「実際に使われている中小M&Aでの価格算定」を解説します。

 これまで沢山の方法をお届けしたように、
 企業価値算定に絶対の正解はありません。

 理論も、これからお話する算定法も、
 全て「M&Aの当事者が合意形成するためのツール」と
 捉えてもらうのが良いと思います。

 中小M&Aでよく用いられるのは
 (1)年買法
 (2)EBITDAマルチプル(※)
 です。

 (1)の年買法は、コストアプローチの回で触れたように
 純資産に営業利益を数年分(2年~5年が多いです)加算する方法です。

 数年分が何年なのか、の倍率は買いニーズによって異なり、
 多くは業種によって相場感が決まってきます。

 (2)EBITDAマルチプルは前回さらっとお伝えしましたが、(※)を付けたのは、
 厳密な理論に基づく方法と、現在、実際の現場で用いられる方法が異なるからです。

 違い・ポイントは、「上場企業を類似企業としてベンチマークしない」点です。
 年買法のように、業種・買いニーズに応じてEBITDA倍率を定め、
 それをEBITDA(営業利益+減価償却費)にかける
、というシンプルな方法を取ります。

 合意形成のしやすさで
 「どの類似企業を選ぶか」「そもそも類似企業が中小企業のベンチマークになるのか」
 といった論点を避けているのだと考えられます。

 過去は、
 (1)の年買法が主流で、純資産+営業利益2~3年
 (2)EBITDAマルチプル(中小M&A版)は譲渡価格=EBITDA×倍率

 という算定をよく耳にしていたのですが、

 現時点では

 (1)年買法:純資産+営業利益3~5年
 (2)EBITDAマルチプル(中小M&A版):ネットキャッシュ+EBITDA×倍率

  ※ネットキャッシュ=現預金―有利子負債

 が増え、徐々に(2)の採用事例が増えてきました。

 理由は断定できませんが、
 (2)はファンドが良く取るバリュエーション手法で、
 近年、事業承継に取り組むファンドが増えていること、
 仲介会社もファンドを紹介することが増えていることなどから、
 算定方法として浸透してきたようにも思います。

 (1)の年買法の倍率が増えたことには、
 買いニーズの増加と仲介会社の参入が激増していることから、
 仲介会社の競争が激しく
 相場感が上がってきたことが起因しているのかもしれません。

 更に、算定書を求められた際、M&A会社が
 複数の評価法(今は上記の2パターンが多いです)
 を比較して提示する例も増えてきました。

 このように、倍率も、方法も、
 絶対これだ、というものはなく、
 常に移り変わってきています。

 また、そもそもですが、前回触れたように、
 M&Aは(非上場企業では)
 オーナー株主と買い手が合意する価格で取引されます。

 算定法はそのためのツールというのが、
 重要なことですので繰り返しお伝えします。

 中小企業庁からも、特に仲介会社が「確定的なバリュエーションの提示は避けるように」
 と指摘が公表されています。

 皆さんがM&Aの相談をされる際、算定だけを頼んでおくということはあまりないかと思いますが、

 今日までの理論と現場の算定方法、それぞれの留意点を把握しておくことで、
 「誰を信用していいのか」「どの情報が正しいのか」
 アンテナを張っておくことが大切です。

 そうした上でアドバイザーや情報提供を受けることができれば、
 「M&Aで何をしたいのか」、その目的に近づくことができるはずです。

 4回に渡り、M&Aの重要な側面を切り取りながら、
 一連のまとまった情報を配信してきたつもりです。

 皆さんから「このような情報が欲しい」といたニーズが出た際には、
 お問い合わせ頂ければ幸いです。

 今後も、M&Aで悩めるオーナー様方を導いていければと思います。
 引き続きどうぞよろしくお願いします。