中小M&Aの株式価値算定の不思議と実際(3/4)
こんにちは!M&A One株式会社、代表取締役の吉川です。
4回に渡って、
企業価値算定の概論と実際
というテーマでお送りしています。
■企業価値算定の概論
(これまで)
3.1 企業価値算定の全体像①インカムアプローチ
3.2 企業価値算定の全体像②コストアプローチ
(ここから)
3.3 企業価値算定の全体像③マーケットアプローチ
3.4 中小M&A支援で用いる価値算定手法と企業価値理論との関連性
今回は、企業価値算定で用いられる
「インカムアプローチ」についてです。
前回から今回までで、かいつまんだ形で
企業価値算定の理論について実情にも触れながら解説します。
大事なのは、
(1)
理論は詳しいところまで、インターネットでも解説がある、という点
(2)
その事実を踏まえて皆さんがどう立ち振る舞うか、という点
です。
以前にお伝えしたように、(喜ばしいことですが)今、売主のリテラシーが上がり、
企業価値の算定法についても、知識を前提とした質問が増えています。
その際に、相談者である皆さんが要点を理解した上で、
「実際には現場でこういった算定を行うことが多い」と言えることが大切です。
そのため、現場の方法だけでなく、
理論も踏まえて「なぜ現場ではかくかくしかじかの方法を用いるのか」
が分かるように解説していきます。
さて、企業価値算定の3つの理論、覚えていますでしょうか。
(1)インカムアプローチ
(2)コストアプローチ
(3)マーケットアプローチ
の3つです。
マーケットアプローチは、
株式やM&Aそのものについて理解する恰好の学習材料なので、
上場企業での企業価値算定の方法も含めて網羅的に解説していきますね。
さて、私の古巣、野村證券の解説集では
「対象企業と同業他社の時価総額を比較したり、類似の買収事例などを参考にしたりして、企業の価値を評価する手法。一般的に、上場企業の場合は株価を基にして評価するが、非上場企業の場合は、同類の上場企業を選定し、税引き後利益などの財務諸表値を比較し倍率を計算した後、選定した上場企業の株価にそれを掛け合わせて算出した対象企業の株価を評価する。」
とあります。
敢えてM&Aの理解を深めるために、
滅多に接しない上場企業のM&Aについても織り交ぜながら解説していきましょう。
私の会社でも、2回、上場企業から売却のご相談があったので、
皆さまがM&Aアドバイザリーを事業にされた場合も、もしかしたら相談が来るかもしれません。
(1)市場株価法
上場企業の場合は、その企業の株価をベースとします。
「プレミアム」といって市場価格(株価)に+30%など加算した価格で、株式を購入します。
一般の投資家から買い手がM&Aのために
「株式を所有する権利」を手放して売ってもらうため、
おまけを支払うわけですね。
余談ですが、
この「株式を所有する権利」が売主(株主)にある
という側面は、M&Aにおいてポイントになります。
買い手から見たら、売主は株式を譲って頂く側、
権利を有している方、であって、
買い手は権利を譲って頂く側、だから対価を支払という見方が正しい認識です。
(2)マルチプル法
「類似企業」といって、業種業態などから対象企業に近しい企業をベンチマークして、
特定の指標の掛け目を用いて対象企業の企業価値を評価します。
理論上のマルチプル法は中小M&Aに適応しにくいため、
さらっと要点だけ記載しておきます。
指標は主にPERとEBITDAがあり(定義は調べてもらうと明確に出てきます)
PERは会社の上場時の株価を想定する際に用いる指標で、
EBITDAはM&Aにおいて広く用いられます。
会社が上場する際は「PER法」として、上場する会社に業態などが似ている会社(類似企業)のPERから参考値を決め、上場する会社の純利益をかけて算定します。
M&Aでは「EBITDAマルチプル」として、
この際、類似企業の事業価値(株式時価総額+ネット有利子負債)とEBITDA(営業利益+減価償却費など)の倍率(掛け目)を算定し、対象企業のEBITDA×倍率で事業価値を出します。
株式時価総額、とあるように、上場企業をベンチマークとすることになります。
市場=マーケットでの評価を参照するためです。
ポイントは、理論的な算定を行うために、
株式市場での類似企業の評価をベースとする点です。
そのため、多くの中小企業では「あの上場企業がベンチマークです」
と言われても、規模や財務体質が違い過ぎて、
売り手も買い手も、評価価格に対する納得感が得にくい
ということがあります。
そのため、マーケットアプローチは
そのままの形では中小M&Aで適応されていない
というのが実態かと捉えています。
(3)類似取引事例法
という、類似のM&A案件における評価額を参照することもあるのですが、
中小M&Aの場合は、譲渡価格が非公開の場合が多く、類似事例の参照が困難なため、
用いることが難しいです。
なぜ非公開かというと、売主が「お金をどれだけ得たか」割れてしまうため、
資産家に見られて営業を受けたり、周りから「大金のために会社を売った」と言われたりするリスクを排除したい、という配慮と、そもそも買い手が公開する義務がないことは公開しなくても良い、という開示ルールの範囲があるため、です。
次回、最終回は、実際に中小M&Aで用いられる
売買参考価格の計算方法
についてお伝えしていきます。